いろいろなことを考察する

西浦氏の説明から「「接触8割減」に必要な人流削減は、ほぼ55%」を計算する


私がネット上でしていることの まとめ は、こちらに。
https://sarkov28.hatenablog.com/entry/2022/03/29/160915



2020-04-24 の西浦氏の説明から、「接触8割減」に必要な人流削減は、ほぼ55%だと計算できます。
この計算を示します。

(1)概要

概要です。

2020-04-24 の西浦氏の説明から、「接触8割減」に必要な人流削減は、ほぼ55%だと計算できます。

計算に用いる情報が示されたのは、2020-04-24 の記者会見です。
これは「第2回意見交換会」という名前ですが、実質的に記者会見です。
youtube に動画もあります。 https://www.youtube.com/watch?v=0M6gpMlssPM
(この記者会見の動画は、上記の他ネット上に複数があり、また配布された資料(の一部と思われるもの)が twitter 上にあります。これらの所在は こちらの [資料] をご参照下さい。)

この記者会見で西浦氏は、接触削減の評価方法を変更しました。
評価方法の変更前は、「「接触8割減」に必要な人流削減は8割だ」と広く報じられていました。(これら報道の根拠も西浦氏ではないかと私は考えています。そう考える理由についてはいずれおそらく twitter に。書いたらここに link を置きます。)

記者会見で変更した評価方法によると、必要な人流削減量は8割未満になります。
西浦氏も記者会見で「8割に至ってなくてもいい」と何度も述べています。(https://twitter.com/sarkov28/status/1581930764484034560
ところが西浦氏は、変更した評価方法で「接触8割減」のためにどれだけの人流削減が必要になるのか(「8割に至っていなくてもいい」とは、実際のところ何%なのか)を明確には語りませんでした。
これは説明上の重要事項が欠落した、ありえないほどおかしな、不適切な説明です。
この重要事項は、記者会見で西浦氏が示した説明から計算できます。

本題に入る前に、「ありえないほどおかしな」というのを説明しておきます。

  • 2020-04-24 の記者会見で西浦氏は、質疑応答を含めた1時間45分ほどの時間の約半分を使って「接触削減の評価方法」を説明しました。
  • そこで評価方法を「接触率を考慮しない→する」と変更し、そう何度も説明しました。
  • そして報道で使われていた人流削減基準の「8割」を何度も否定しています。
  • ならば人流削減の新たな基準値をはっきり示さないのは、ありえないほどおかしな話だ、

ということです。
もしキッチリした数字が言えないなら、およその数でも、幅の提示でも、何かを示す必要があります。仮にそれすら言えないのなら、事情とともに「基準は言えない」を明言する必要があります。
しかし、こうした説明もありませんでした。これはちょっと信じられないほど不自然です。
西浦氏は、本エントリで計算された新しい基準値「ほぼ55%」を言いたくなかったのかも知れません。

西浦氏は明示してくれませんでしたが、記者会見の中で材料は提示していました。
以下でこの材料を使って「ほぼ55%」を計算します。

(2)何を計算するのか

何を計算するのか、説明します。

2020-04-24 の記者会見で西浦氏は、

接触削減は、感受性人口の減少と、接触率の減少との掛算(積)で評価できる、 ... (2.1)

と説明変更しました。(変更前の説明も、西浦氏によって示されたものと考えています。)

当時の政府の政策「接触8割減」のために、新しい評価方法では人流をどれだけ削減する必要があるのでしょう。 ... (2.2)
(2.2)の「どれだけ削減する必要が」を計算したいのです。

(2.1)と(2.2)を組み合わせて書き換えると、以下の表現になります。
(感受性人口の減少と、接触率の減少との掛算で評価できる)接触削減が「接触8割減」になるための、人流削減はどれだけか。 ... (2.3)
計算したいのは、(2.3)の「人流削減はどれだけか」です。

(2.3)の一部は既に分かっています。
感受性人口は、人流と同じように減少します。
つまり、
人流が p 倍(p = 0.0~1.0)になると、感受性人口も p 倍になる ... (2.4)
のです。

(2.4)で「人流と感受性人口との関係」は分かっていますので、(2.3)を計算するために残っているのは「人流と接触率の関係」です。
言い方を変えると、必要な人流の削減率を計算するために残っているのは
人流が p 倍になる時に、接触率がどのように減少するのか、 ... (2.5)
です。

(3)「ほぼ55%」を計算した背景

「ほぼ55%」を計算した背景です。

このエントリだけでも上に示した内容として読めるようにしてありますが、このエントリは、西浦氏が 2020-05-01 の専門家会議とその後の記者会見で示した奇妙な説明変更の中で、重要な位置を占めています。
これを説明した twitter での連ツイ群[接触削減の評価方法の大混乱]が以下です。
この連ツイ群には2つのポイントがあります。

  • 一つ目は、接触削減の評価方法に大混乱があったことです。
    国民の行動を制限した接触削減政策の評価方法に混乱があったというのは、重大なことだと考えます。
  • 二つ目は、西浦氏が 2020-05-01 の専門家会議で、不適切な説明変更を意図的にしたことです。
    一般的に、誰かが何かおかしな言動をしても、それが意図的であるとまで主張するのは困難です。しかしここでの西浦氏の説明は極めておかしな説明を繰り返し行っているので、私はこれを意図的だと主張します。
    政策の評価方法の説明変更がこのような形で行われたのは、重大なことだと考えます。
    https://twitter.com/sarkov28/status/1581927071370002432

これらの詳細、特に私が西浦氏の説明変更が意図的だと考えている理由については、以下の twitter をご参照ください。

これらは [0 目次]からも辿れるようにしてあります。

なお私は、「接触8割減」の根拠には重大な疑義があると考えており、その件については https://twitter.com/sarkov28/status/1463853344720490503 以下で書いています。

(4)計算

「ほぼ55%」を計算していきます。

(4-1) 図1と図2から、計算方法を読み取る

まず、図1と図2から、計算方法を読み取ります。

時折私の推測が入っていますが、それは西浦氏の説明が不足していることが原因です。
説明が不足しているのは、不適切です。

図1は、西浦氏が記者会見で示した資料に私が緑線を加筆したものです(所在は こちらの [資料] に)。

減少率(図1e)を、固有値(図1c)  / 固有値(図1d) の割り算で計算しています。
(図1e) = 1.0 - (図1c)  / (図1d) ... (4.1)
実際の数値を入れて右辺から書くと、
1.0 - 185741 / 368870 = 0.4964 = 49.6% ... (4.2)
となります。
(図1e)の49.6%が、(図1a)なのですから、この(4.1)を言葉で書くと、こうなります。
(接触率の減少) = 1.0 - (ある日の固有値)  / (基準日の固有値) ... (4.3)

ここで「固有値」というのがよく分からないのですが、それは図2に書いてあります。
図2も、西浦氏が会見で示した資料に私が緑線を加筆したものです。

(図2f)に、「接触頻度行列 T の最大固有値」とあります。
図1の(図1c)(図1d)の「固有値」は、ここに書いてある最大固有値だと思われます。
接触頻度行列 T というのは、(明記はありませんが、) t_{ij} を要素とする行列でしょう。 この T の最大固有値を使うということです。

以上をまとめると、以下になります。

  • (4a) 年齢群 i と年齢群 j の接触頻度  t_{ij} を(図2b)で計算し、
  • (4b) その  t_{ij} を要素とする接触頻度行列 T を作り、
  • (4c) その最大固有値(図2f)を計算し、
  • (4d) その変化(図1e)を計算すると、
  • (4e) 接触率の減少(図1a、式(4.1))が計算できる。 ... (4.4)

以上で計算方法が分かりましたので、
「人流 が p 倍になるとき、(4.4)の接触率はどうなるのか」
を計算していきます。

(4-2) 読み取った計算方法で計算していく

読み取った計算方法で計算していきます。

人流が p 倍になった時の

  • (4a) 年齢群 i と年齢群 j の接触頻度  t_{ij} を(図2b)で計算し、
  • (4b) その  t_{ij} を要素とする接触頻度行列 T を作り、
  • (4c) その最大固有値(図2f)を計算し、
  • (4d) その変化(図1e)を計算すると、
  • (4e) 接触率の減少(図1a、式(4.1))が計算できる。 ... (4.4)

を計算していきます。
この際、計算を簡単にするため、人流が p 倍になると、各年齢群の人口が一律に p 倍になると考えます。
実際には一律に p 倍にならずにバラつきがあるので、計算結果は多少ずれるはずです。

(4a) にある(図2b)は以下です。

 \displaystyle t_{ij} = \sum_{h=1}^H \sum_{z=1}^Z (k^{hz}_i \times \frac{k^{hz}_j}{\sum_{l=1}^n k^{hz}_l})

この右辺を、 \displaystyle k^{hz}_i と、 \displaystyle \frac{k^{hz}_j}{\sum_{l=1}^n k^{hz}_l} とに分けて考えます。

まず  k^{hz}_i を考えます。これは簡単です。
人流が p 倍になると、 k^{hz}_i は p 倍になります。... (4.5)
図2の(図2e)に、「 k^{hz}_i = ある年齢群の人口」と書いてあるからです。

一方、より複雑な  \displaystyle \frac{k^{hz}_j}{\sum_{l=1}^n k^{hz}_l} は、人流が p 倍になっても変化しません。
なぜなら、「 k^{hz}_i = ある年齢群の人口」なので、人流が p 倍になると、

  • 分子の  \displaystyle k^{hz}_j が p 倍になり、
  • 分母の  \sum_{l=1}^n k^{hz}_l も p 倍になる

からです。分子と分母がどちらも p 倍になるので、 \displaystyle \frac{k^{hz}_j}{\sum_{l=1}^n k^{hz}_l} は変化しません。 ... (4.6)

以上の結果、人流が p 倍になる時、

  • (4.5) から、 k^{hz}_i は p 倍に、
  • (4.6) から、 \displaystyle \frac{k^{hz}_j}{\sum_{l=1}^n k^{hz}_l} は変化しない、

ことがわかりました。 ... (4.7)

注目している(図2b)は、
 \displaystyle t_{ij} = \sum_{h=1}^H \sum_{z=1}^Z (k^{hz}_i \times \frac{k^{hz}_j}{\sum_{l=1}^n k^{hz}_l})
でした。人流が p 倍になる時は、ここに(4.7)を適用して、
 \displaystyle t_{ij} = \sum_{h=1}^H \sum_{z=1}^Z ( (p 倍になる) \times (変化しない) ) ... (4.8)
となります。
上で仮定したように各年齢群の人口が一律に p 倍になると考えた場合、(4.8)式は、 p 倍になります。

以上により、人流が p 倍になる時、

  • (4a) 年齢群 i と年齢群 j の接触頻度  t_{ij} を(図2b)で計算し、

 t_{ij} が「p 倍になる」ことが分かりました。 ... (4.9)
したがって、

  • (4b) その  t_{ij} を要素とする接触頻度行列 T を作り、

の T も、「p 倍になります」。 ... (4.10)

この行列 T の最大固有値は、各年齢群の人口が一律に p 倍になると考えた場合には、p 倍になります。 ... (4.11)

これまでの計算では「各年齢群の人口が一律に p 倍」と考えてきましたが、実際にはばらつきがあります。
だから T の最大固有値は「ほぼ p 倍」と考えるべきだと思います。 ... (4.12)

結局、
人流が p 倍になるときの接触率は、ほぼ p 倍 になる ... (4.13)
ことが分かりました。

(4-3) 上の計算で省いた(誤魔化した)点の補足

上の計算で省いた(誤魔化した)点の補足です。

お気づきかも知れませんが、上の計算で省いた(誤魔化した)点があります。
接触率の増減の計算をしていたはずなのに、途中で接触頻度の増減を使っていました。

西浦氏は、3カ所で「接触率の増減と接触頻度の増減は同じ」の旨を説明しています。
なので、接触率の増減と、接触頻度の増減とを区別する必要はないのです。
西浦氏による3カ所の説明については、(5)補足「接触率の増減と接触頻度の増減は同じ」に書いておきますので、そちらをご参照下さい。

(4-4) 計算の仕上げ

計算の仕上げです。

(2)で計算のために「残っている」としていたのは、(2.5)の「人流と接触率の関係」でした。
再掲すると
人流が p 倍になる時に、接触率がどのように減少するのか、 ... (2.5)
です。

先ほど、
人流が p 倍になるときの接触率は、ほぼ p 倍 になる ... (4.13)
を得ていますので、これで(2.5)が分かりました。
ようやく、求めたかったものが計算できます。

計算したかった(2.3)を再掲します。
(感受性人口の減少と、接触率の減少との掛算で評価できる)接触削減が「接触8割減」になるための、人流削減はどれだけか。 ... (2.3)

(2.4)が、
人流が p 倍(p = 0.0~1.0)になると、感受性人口も p 倍になる ... (2.4)
であり、(4.13)が、
人流が p 倍になるときの接触率は、ほぼ p 倍 になる ... (4.13)
なので、これらを(2.3)に適用すると、以下になります。

人流が p 倍になった時の接触は、p×(ほぼ p)倍になる。これが「接触8割減」になるための、人流削減はどれだけか。 ... (4.14)

接触8割減」というのは、接触が 0.2 倍になることです。

したがって、「接触8割減」のために必要な p は、(4.14)から
p×(ほぼ p) = 0.2
となる p です。これを解くと、
p = ほぼ 0.45
となります。

接触8割減」のために必要な人流は、ほぼ 0.45 倍であることが分かりました。
つまり「接触8割減」のために必要な人流削減は、ほぼ55%であることが分かりました。

これで、
接触8割減」に必要な人流削減は、ほぼ55% ... (4.15)
が計算できました。

(5)補足「接触率の増減と接触頻度の増減は同じ」

接触率の増減と接触頻度の増減は同じ」という件についての補足です。

西浦氏は、資料の2カ所と、口頭の1カ所で「接触率の増減と接触頻度の増減は同じ」の旨を説明しています。
以下に西浦氏の説明の所在を示します。

(5-1) 「接触率の増減と接触頻度の増減は同じ」その1

接触率の増減と接触頻度の増減は同じ」その1です。

図1を再掲します。

この図は、(図1e)の減少率が、(図1a)の接触率の減少であり、それをメッシュごとに表示したのが(図1b)の接触頻度増減率だと説明しています。

(図1a)と(図1b)は「メッシュごと」かどうかの差ですから、この2つは同じものを指しています。つまり、

  • (図1a) 接触率(の減少)
  • (図1b) 接触頻度(増減率)

は同じものです。
したがって図1は、
接触率の増減と接触頻度の増減は同じ ... (5.1)
だと示しています。

(5-2) 「接触率の増減と接触頻度の増減は同じ」その2

接触率の増減と接触頻度の増減は同じ」その2です。

図2を再掲します。

図2の(図2b)(図2c)について、西浦氏は口頭で以下のように説明しています。

この数式をちゃんと翻訳すると、右側で日本語で書いているようなものです。
動画の 39m11s~
https://www.youtube.com/watch?v=0M6gpMlssPM&t=39m11s

西浦氏の説明における「この数式」は(図2b)を、「右側で日本語で」は(図2c)を指しています。
西浦氏は、両者を「ちゃんと翻訳すると」同じだと言っています。

  • 「この数式」の(図2b)左辺は、(図2d)によると「年齢群 i と 年齢群 j の接触頻度」です。
  • 「右側で日本語で」の(図2c)左辺は、「年齢 i と 年齢 j の接触率」です。

したがって、図2は、
接触率と接触頻度は同じ ... (5.2)
と示していると言えそうなのですが、西浦氏の真意は、
接触率の増減と接触頻度の増減は同じ ... (5.3)
だと思います。

(5.2)と(5.3)の違いについては、(5-5)に書いた補足 をご参照下さい。
私の推測になりますが、西浦氏が上掲動画で「ちゃんと翻訳すると」と、含意のある言い方をしたのは、(5-5)の補足の意味だと思います。

(5-3) 「接触率の増減と接触頻度の増減は同じ」その3

接触率の増減と接触頻度の増減は同じ」その3です。

西浦氏は、上の2つと別に、記者会見の質疑応答で、こう述べています。

(質問者)接触率と、接触頻度という言葉を使ってるんですけども(略)、言葉はどう使い分けてるんですか。
(西浦氏)接触頻度は(略)、ほぼ率で読んで頂いて大丈夫です。
動画の 1h17m55s~
https://www.youtube.com/watch?v=0M6gpMlssPM&t=1h17m55s
質問者は、日経記者のアンドウ氏。

西浦氏の回答の「率」というのは接触率です。だからこの動画の回答は
接触頻度は、ほぼ接触率です ... (5.4)
を示しているのですが、西浦氏の真意は、
接触率の増減と接触頻度の増減は(ほぼ)同じ ... (5.5)
だと思います。

(5.4)と(5.5)の違いについては、(5-5)に書いた補足 をご参照下さい。
私の推測になりますが、西浦氏が上掲動画で「ほぼ接触率です」と、「ほぼ」を付けたのは、(5-5)の補足の意味だと思います。

(5-4) 「接触率の増減と接触頻度の増減は同じ」のまとめ

接触率の増減と接触頻度の増減は同じ」をまとめておきます。

(5.1)(5.3)(5.5)の通り、西浦氏は資料と口頭で、接触頻度の増減と接触率の増減は同じである旨を示しています。

(5-5) さらなる補足

接触率の増減と接触頻度の増減は同じ」のさらなる補足です。

西浦氏は、接触率と接触頻度が、どこが同じでどこが違うのかを分かりやすく説明はしていませんが、西浦氏の説明の断片を私が補うと以下のようになります。

  • (5-5a) 接触頻度は、元になるデータがあれば、ある日付の値を計算できる。
    Σの式があるので。
  • (5-5b) したがって、ある日付の接触頻度を基準とした、別の日付の接触頻度の増減率も計算できる。
    (5-5a)で計算した値の比を計算すればいい。
  • (5-5c) 接触率は、ある日付における値を計算することはできない。
  • (5-5d) しかし、ある日付の接触率を基準とした、別の日付の接触率の増減率は計算できる。
    ある日付の接触頻度行列の最大固有値と、別の日付の接触頻度行列の最大固有値との比を計算すればいい。

(5-5a)の「Σの式」は、 \displaystyle t_{ij} = \sum_{h=1}^H \sum_{z=1}^Z (k^{hz}_i \times \frac{k^{hz}_j}{\sum_{l=1}^n k^{hz}_l}) です。
だから、

  • (5-5e) ある日付における接触頻度と、ある日付における接触率を同じとは言えません。
    そもそもある日付における接触率は計算できないからです。
  • (5-5f) ある日付を基準とした別の日の接触頻度の増減率と、ある日付を基準とした別の日の接触率の増減率は、同じと言えます。
    相対値において両者は、同じになるのです。

(5-5f)では単に「同じ」としましたが、接触頻度行列の各要素が増減する場合は、一般に同じ比率で増減することはなく、ばらつきが出ます。この寄与を考慮するなら、ここは「ほぼ同じ」とすべきです。

本エントリで関心があるのは、「人流が p 倍になったとき」でした。これは(5-5f)に該当します。
本エントリでの関心範囲においては、接触頻度と接触率は、同じと言えます。
正確を期すなら、「接触率の増減と接触頻度の増減は同じ」とすべきです。

(6)補足「接触頻度」の3つの意味について

接触頻度」の意味についての補足です。

本エントリの計算にも関係ある事項なので書いておきます。
西浦氏は「接触頻度」という語を、極めて不適切な態様で使っています。

ご説明している通り、接触頻度は、本エントリで重要な役割を果たしています。
ところが極めて不適切なことに、西浦氏は「接触頻度」という語を、短期間の間に複数の意味で使っているのです。
短期間というのは、2020-04-24 の記者会見から、2020-05-01 の専門家会議までの、わずか一週間です。この件は、上にも挙げた twitter 連ツイ https://twitter.com/sarkov28/status/1587414490303279104 に書きました。
複数というのは、3つです。この他に明白な1つの誤用があります。

この事情があるので、厳密に言うと、この時期の西浦氏が接触頻度という語を使った際は、この3つのうち、どの意味で使っているのかが不明だという問題があります。
接触頻度は重要概念で頻出しますので、「接触頻度をどの意味で使っているのか不明だ」というのは「この付近の西浦氏はほとんど何を言ってるのかが分からない」という、非常に深刻な事態を指しています。

収拾がつかないので私は、「西浦氏の説明は、(私が)解釈可能な範囲において一貫しているはずだ」という仮説を立てました。
要するに「西浦氏は(私が)解釈可能な範囲においてまともな説明をしているはずだ」という仮説です。
この仮説に基づき、2020-04-24 に使われている接触頻度は1つの意味で使われていると解釈しています。
またこの仮説だと、2020-05-01 には、2020-04-24 とは別の2つの意味で使われていると解釈できます。

なお、上に「1つの誤用」と書いたのは、2020-05-01 専門家会議の提言 p.06 におけるものですが、これは会議当日に、田中重人 TANAKA Shigeto @twremcat さんに指摘 https://twitter.com/twremcat/status/1256215440193437698 されています。(同じ誤りが議事次第 p.06 にも。)
要するに、TANAKA さんが見てすぐ分かるような間違いが、提言(と議事次第)にある。
頭が痛いのは、この誤りが「接触頻度」という重要概念を定義する一節で起きていることです。わざわざ書くのも馬鹿らしいですが、重要概念の定義に誤りがあったら、そこでの説明全体がおかしなものになります。
つまり、これら資料においては、接触頻度に関する記述を字義通りに読むことは出来ず、読者が定義を忖度して読むしかありません。
しかも追い打ちを掛けるように、そこに定義されていない別の使われ方(=ステルス説明変更)もあるのです。
何と言ったらいいのか、ある程度の執着心を持っていないと、これら資料を読み解こうという気持ちにならない状況があります。この状況を意図した誤記ではないかとの疑いすらあります。



(99)修正履歴

修正履歴です。

大きな修正をした場合には、ここに書きます。

  • 2022-10-21 初版作成。
  • 2022-10-22 (2)と(4-4)を詳しくし、(4-3-4)と(5)を追加しました。
  • 2022-10-23 (5)を(6)にし、(4-3)のほとんどを(5)にし、併せて周辺の記述を修正しました。新たに(5)にした部分を他から参照しやすくするための変更です。
  • 2022-10-24 (5-5)を追加しました。
  • 2023-04-14 (3)の twitter の連ツイの url を最後まで書きました。数カ所に加筆、修正をしました。