いろいろなことを考察する

コロナ関連の資料


私がネット上でしていることの まとめ は、こちらに。
https://sarkov28.hatenablog.com/entry/2022/03/29/160915



コロナ関連で重要と考える資料と、関連するコメントを書いておきます。著者名は敬称を略すことがあります。

twitter に書いている諸々のうちの2つの事項に関連する資料については、別のエントリに書いています。目的が違うので、このエントリや以下の2つのエントリの内容は、重複するかも知れません。


目次


2008 稲葉寿 微分方程式感染症数理疫学

微分方程式感染症数理疫学, 数理科学 46 (4), 19-25, 2008-04, サイエンス社

この論文を参照するために使っていたリンクが切れていたので、ここに改めて所在を書いておきます。

この論文は、私が以下のツイ他で参照しているものです。


2020-06-11 西浦博「「8割おじさん」の数理モデルとその根拠」(Newsweek 2020-06-09 号)

Newsweek 記事、「「8割おじさん」の数理モデルとその根拠──西浦博・北大教授」です。

これは特に重要な記事です。以下2つは同内容だと思います。

以下、ネット記事に基づいて書きます。

主な内容は、西浦氏による「42万死亡推計」の解説です。
p.03 脚注で、github にある「42万死亡推計」の詳細を示しています。
また、p.05 脚注で、「42万死亡推計」に関係のある重要論文として、異質性に関する2つの論文を示しています。

  • Gomes GM, et al., "Individual Variation in Susceptibility or Exposure to SARS-Cov-2 Lowers the Herd Immunity Threshold," medRxiv, posted on April 27, 2020
  • Britton T, et al., "The disease-induced herd immunity level for Covid-19 is substantially lower than the classical herd immunity level," medRxiv, posted on May 6, 2020

西浦氏はこの記事で

  • (a)「42万死亡推計」が計算時点(2020-03-19)、発表時点(2020-04-15)において正当だったこと
  • (b) 2020-05 後半から 2020-06 上旬の日本の感染状況が、かなり抑えられていること

という、両立が難しそうな2つの事項の説明を試み、一応はこれを行っています。
ただし私は、このうち少なくとも(a)の説明には異論があります。この異論についてはいずれ(おそらく twitter に)書く予定です。


2020-08 西浦博「感染症数理モデル元年に機構と外挿の狭間に立つ」

西浦博「感染症数理モデル元年に機構と外挿の狭間に立つ」です。
数学セミナー 2020-09 の発行は、2020-08 です。

この論考は、以下の3つにあります。
(a)(b)(c)はほぼ同内容ですが、(a)(b)にある冒頭の一節が、(c)にはありません。
この一節は長くありませんが(雑誌紙面で、ページ半分弱)、「(西浦氏が)コードを全開示している」旨の(私にとっては)重要な表明が含まれています。(これ以外の一致を詳細に確認した訳ではありません。)

ムック本の (b) は、(a) の特集を集めたもの。(2023-12-08 時点で、入手可能なのは電子版だけのようです。)
単行本の (c) は、西浦氏らが雑誌などで発表した論文を集めたものであり、その中にこの論考が収められています。

この論考には2つのポイントがあると思います。
一つ目のポイントは、「モデルには、機構と外挿がある」ということです。

「機構」というのは「感染機構を組み込んだモデル」というほどの意味であり、つまり SIR 系のモデルを念頭に置いていると思われます。
(「感染機構を組み込んだ」というのは以下のような意味です。例えば、シンプルな SIR モデル(https://sarkov28.hatenablog.com/entry/2021/01/04/113012)における、新規感染者数を表す項である  βSI は、「新規感染者数が、感染しやすさに比例する定数  β と、感受性者数  S と、感染者数  I とに比例する」と主張しています。これは感染機構、つまり「感染は感受性者と感染者との接触によって起こる」という事情を表現していると言えます。)

西浦氏は「外挿」を「外挿的なモデル(extrapolation model)は誤解を恐れずに対比して書くならば,現象論として観察データを説明するのに「正しいっぽい曲線」を当てはめたものに相当する」と説明しています。例えば中野貴志氏の「K値」の計算はこれに該当すると私は思います。(西浦氏が「K値が」と具体的に書いている訳ではありません。)

「感染機構を組み込んだモデルの方が優れたところがある」という旨で書かれています。
(西浦氏が「外挿」のモデルを全く扱わないという意味ではありません。「(自分も)ロジスティック曲線を使うことがある」旨を説明しています。)

私も、

  • 実測データへの当てはまりの良さが同程度の2つのモデルがあり、
  • 一方が感染機構を組み込んだモデル、
  • 他方が外挿によるモデル、

であるなら、感染機構を組み込んだモデルの方が有望そうだとは思います。

二つ目のポイントは、「厚生労働省HIV 感染者数の推定に用いていたモデルは、外挿によるものだった。これは適切なモデルとは言えなかった」ということです。
HIV 感染者数の推定のモデルについてのその後の事情は、論考に明記がありません。厚労省は、モデル構築において西浦氏に「敗北」した可能性もあります。例えば現在も、西浦氏が関与したモデルを使っているのかも知れません。
もしそうであれば、新型コロナで西浦氏が重用されたこと、重用され続けていることに繋がりそうです。


2023-03-13 瀬名秀明ら「知の統合は可能か: パンデミックに突きつけられた問い」

瀬名秀明ら「知の統合は可能か: パンデミックに突きつけられた問い」です。
https://www.amazon.co.jp/dp/4788718693
この amazon によると、著者は瀬名秀明渡辺政隆、押谷仁、小坂健の各氏であり、発売日は 2023-03-13 です。


2023-03-18 瀬名秀明ら「知の統合は可能か: パンデミックに突きつけられた問い」文献リスト

「知の統合は可能か: パンデミックに突きつけられた問い」の文献リストです。

これは pdf ファイルとしてネット上に示されています。
非常に大量の文献のリストです。
重要と思いますので、別の項目にしました。

2023-03-18 瀬名秀明 新型コロナウイルス感染症に関する書籍リスト Ver.1.0
https://bookpub.jiji.com/files/BookList_2023_0318(1).pdf


2023-09-22 尾身茂「1100日間の葛藤 新型コロナ・パンデミック、専門家たちの記録」

尾身氏の手記、「1100日間の葛藤 新型コロナ・パンデミック、専門家たちの記録」です。

https://www.amazon.co.jp/dp/4296202553/


更新履歴

  • 2023-03-09
    公開。
    西浦博「感染症数理モデル元年に機構と外挿の狭間に立つ」を書きました。
  • 2023-03-23
    瀬名秀明ら「知の統合は可能か: パンデミックに突きつけられた問い」と、「文献リスト」を追加しました。
  • 2023-05-07
    「「8割おじさん」の数理モデルとその根拠」の項を追加しました。
  • 2023-09-24
    尾身茂「1100日間の葛藤 新型コロナ・パンデミック、専門家たちの記録」の項を追加しました。
  • 2023-12-08
    感染症数理モデル元年に機構と外挿の狭間に立つ」の記述を変更しました。
    まず最初の部分、(a)(b)(c)の異同についての記述を変更しました。変更前は、「(a)(b)(c)は実質的に同内容だ」という旨でした。また「外挿」の説明を変更した他、細かな修も加えました。