私がネット上でしていることの まとめ は、こちらに。
https://sarkov28.hatenablog.com/entry/2022/03/29/160915
コロナ関連で重要と考える資料と、関連するコメントを書いておきます。著者名は敬称を略すことがあります。
twitter に書いている諸々のうちの2つの事項に関連する資料については、別のエントリに書いています。目的が違うので、このエントリや以下の2つのエントリの内容は、重複するかも知れません。
- 最初の緊急事態宣言「接触8割減」の根拠への疑問 [資料]
https://sarkov28.hatenablog.com/entry/2021/11/25/210821 - 接触削減の評価方法の大混乱 [資料]
https://sarkov28.hatenablog.com/entry/2022/10/21/225701
日付は、ネット初出の日だったり(後日刊行された)本の刊行日だったりして、統一されていません。およそ日付順に並べるようにします。
目次
- 2008 稲葉寿 微分方程式と感染症数理疫学
- 2020-06-11 西浦博「「8割おじさん」の数理モデルとその根拠」(Newsweek 2020-06-09 号)
- 2020-08 西浦博「感染症数理モデル元年に機構と外挿の狭間に立つ」
- 2023-03-13 瀬名秀明ら「知の統合は可能か: パンデミックに突きつけられた問い」
- 2023-03-18 瀬名秀明ら「知の統合は可能か: パンデミックに突きつけられた問い」文献リスト
- 2023-09-22 尾身茂「1100日間の葛藤 新型コロナ・パンデミック、専門家たちの記録」
- 更新履歴
2008 稲葉寿 微分方程式と感染症数理疫学
微分方程式と感染症数理疫学, 数理科学 46 (4), 19-25, 2008-04, サイエンス社
この論文を参照するために使っていたリンクが切れていたので、ここに改めて所在を書いておきます。
- CiNii
https://cir.nii.ac.jp/crid/1522262178394904448 - 切れているリンク
https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~inaba/inaba_science_2008.pdf - pdf ファイルへのリンク
https://www.researchgate.net/profile/Hisashi-Inaba/publication/341121176_weifenfangchengshitoganranzhengshuliyixue/links/5eaffb9b92851cb267731699/weifenfangchengshitoganranzhengshuliyixue.pdf - researchgate(上記 pdf へのリンクを含む)
https://www.researchgate.net/publication/341121176_weifenfangchengshitoganranzhengshuliyixue
この論文は、私が以下のツイ他で参照しているものです。
- SIR 方程式の感染者数が「感染拡大初期では指数関数的拡大をする」という辺り(マルサス法則)の考察
- 様々な条件下での、最終的な感染者の割合(最終規模)の考察
2020-06-11 西浦博「「8割おじさん」の数理モデルとその根拠」(Newsweek 2020-06-09 号)
Newsweek 記事、「「8割おじさん」の数理モデルとその根拠──西浦博・北大教授」です。
これは特に重要な記事です。以下2つは同内容だと思います。
- ネット:https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/06/8-39_1.php
日付は 2020-06-11 です。 - 紙媒体:Newsweek 2020-06-09 号
発売日は、2020-06-02 です。
以下、ネット記事に基づいて書きます。
主な内容は、西浦氏による「42万死亡推計」の解説です。
p.03 脚注で、github にある「42万死亡推計」の詳細を示しています。
また、p.05 脚注で、「42万死亡推計」に関係のある重要論文として、異質性に関する2つの論文を示しています。
- Gomes GM, et al., "Individual Variation in Susceptibility or Exposure to SARS-Cov-2 Lowers the Herd Immunity Threshold," medRxiv, posted on April 27, 2020
- Britton T, et al., "The disease-induced herd immunity level for Covid-19 is substantially lower than the classical herd immunity level," medRxiv, posted on May 6, 2020
西浦氏はこの記事で
- (a)「42万死亡推計」が計算時点(2020-03-19)、発表時点(2020-04-15)において正当だったこと
- (b) 2020-05 後半から 2020-06 上旬の日本の感染状況が、かなり抑えられていること
という、両立が難しそうな2つの事項の説明を試み、一応はこれを行っています。
ただし私は、このうち少なくとも(a)の説明には異論があります。この異論についてはいずれ(おそらく twitter に)書く予定です。
2020-08 西浦博「感染症数理モデル元年に機構と外挿の狭間に立つ」
西浦博「感染症数理モデル元年に機構と外挿の狭間に立つ」です。
数学セミナー 2020-09 の発行は、2020-08 です。
この論考は、以下の3つにあります。
(a)(b)(c)はほぼ同内容ですが、(a)(b)にある冒頭の一節が、(c)にはありません。
この一節は長くありませんが(雑誌紙面で、ページ半分弱)、「(西浦氏が)コードを全開示している」旨の(私にとっては)重要な表明が含まれています。(これ以外の一致を詳細に確認した訳ではありません。)
- (a) 数学セミナー 2020-09 特集 新型コロナウイルスと闘うために数学にできること
https://www.amazon.co.jp/dp/B08DPPHXW1/ - (b) 新型コロナウイルスと闘うために数学にできること
https://www.amazon.co.jp/dp/B08P9Z3N7K/ - (c) 日本評論社 西浦博 編著「感染症流行を読み解く数理」第21章
https://www.amazon.co.jp/dp/B0B5QCCQJY/
ムック本の (b) は、(a) の特集を集めたもの。(2023-12-08 時点で、入手可能なのは電子版だけのようです。)
単行本の (c) は、西浦氏らが雑誌などで発表した論文を集めたものであり、その中にこの論考が収められています。
この論考には2つのポイントがあると思います。
一つ目のポイントは、「モデルには、機構と外挿がある」ということです。
「機構」というのは「感染機構を組み込んだモデル」というほどの意味であり、つまり SIR 系のモデルを念頭に置いていると思われます。
(「感染機構を組み込んだ」というのは以下のような意味です。例えば、シンプルな SIR モデル(https://sarkov28.hatenablog.com/entry/2021/01/04/113012)における、新規感染者数を表す項である は、「新規感染者数が、感染しやすさに比例する定数 と、感受性者数 と、感染者数 とに比例する」と主張しています。これは感染機構、つまり「感染は感受性者と感染者との接触によって起こる」という事情を表現していると言えます。)
西浦氏は「外挿」を「外挿的なモデル(extrapolation model)は誤解を恐れずに対比して書くならば,現象論として観察データを説明するのに「正しいっぽい曲線」を当てはめたものに相当する」と説明しています。例えば中野貴志氏の「K値」の計算はこれに該当すると私は思います。(西浦氏が「K値が」と具体的に書いている訳ではありません。)
「感染機構を組み込んだモデルの方が優れたところがある」という旨で書かれています。
(西浦氏が「外挿」のモデルを全く扱わないという意味ではありません。「(自分も)ロジスティック曲線を使うことがある」旨を説明しています。)
私も、
- 実測データへの当てはまりの良さが同程度の2つのモデルがあり、
- 一方が感染機構を組み込んだモデル、
- 他方が外挿によるモデル、
であるなら、感染機構を組み込んだモデルの方が有望そうだとは思います。
二つ目のポイントは、「厚生労働省が HIV 感染者数の推定に用いていたモデルは、外挿によるものだった。これは適切なモデルとは言えなかった」ということです。
HIV 感染者数の推定のモデルについてのその後の事情は、論考に明記がありません。厚労省は、モデル構築において西浦氏に「敗北」した可能性もあります。例えば現在も、西浦氏が関与したモデルを使っているのかも知れません。
もしそうであれば、新型コロナで西浦氏が重用されたこと、重用され続けていることに繋がりそうです。
2023-03-13 瀬名秀明ら「知の統合は可能か: パンデミックに突きつけられた問い」
瀬名秀明ら「知の統合は可能か: パンデミックに突きつけられた問い」です。
https://www.amazon.co.jp/dp/4788718693
この amazon によると、著者は瀬名秀明、渡辺政隆、押谷仁、小坂健の各氏であり、発売日は 2023-03-13 です。
2023-03-18 瀬名秀明ら「知の統合は可能か: パンデミックに突きつけられた問い」文献リスト
「知の統合は可能か: パンデミックに突きつけられた問い」の文献リストです。
これは pdf ファイルとしてネット上に示されています。
非常に大量の文献のリストです。
重要と思いますので、別の項目にしました。
2023-03-18 瀬名秀明 新型コロナウイルス感染症に関する書籍リスト Ver.1.0
https://bookpub.jiji.com/files/BookList_2023_0318(1).pdf
2023-09-22 尾身茂「1100日間の葛藤 新型コロナ・パンデミック、専門家たちの記録」
尾身氏の手記、「1100日間の葛藤 新型コロナ・パンデミック、専門家たちの記録」です。
https://www.amazon.co.jp/dp/4296202553/
更新履歴
- 2023-03-09
公開。
西浦博「感染症数理モデル元年に機構と外挿の狭間に立つ」を書きました。 - 2023-03-23
瀬名秀明ら「知の統合は可能か: パンデミックに突きつけられた問い」と、「文献リスト」を追加しました。 - 2023-05-07
「「8割おじさん」の数理モデルとその根拠」の項を追加しました。 - 2023-09-24
尾身茂「1100日間の葛藤 新型コロナ・パンデミック、専門家たちの記録」の項を追加しました。 - 2023-12-08
「感染症数理モデル元年に機構と外挿の狭間に立つ」の記述を変更しました。
まず最初の部分、(a)(b)(c)の異同についての記述を変更しました。変更前は、「(a)(b)(c)は実質的に同内容だ」という旨でした。また「外挿」の説明を変更した他、細かな修も加えました。