いろいろなことを考察する

免疫や感染症対策が、最終的な感染者数(最終規模)や集団免疫閾値に与える影響


私がネット上でしていることの まとめ は、こちらに。
https://sarkov28.hatenablog.com/entry/2022/03/29/160915



免疫や感染症対策が、最終的な感染者数に与える影響を検討します。
この際、「免疫での実効再生産数の低下」と「感染症対策での実効再生産数の低下」の違いを検討します。
また、感染症対策が、集団免疫閾値に与える影響を検討します。

最終的な感染者数(の比率)は「最終規模 final size」と呼ばれるので、以下ではそう書きます [稲葉 2008]。
つまり以下では、免疫や感染症対策が、最終規模に与える影響について検討します。

このブログエントリの全てのグラフは、google colab スクリプト
https://colab.research.google.com/drive/1XUk08QtkniHMoYI7z_YbfYC3MhDauDv6?usp=sharing
で計算、描画しました。

このブログエントリに関連する事項を、twitter に連ツイ https://twitter.com/sarkov28/status/1646049139594088451 として書きました。ただしこれはこのブログエントリの概要であり、こちらに書いてない事項はないと思います。


目次


(1)議論の前提

以下で行う議論の前提です。

以下で「免疫」というのは、「感染予防に有効なワクチンによる免疫」や「感染による免疫」を指します。
2023-03 時点にける新型コロナのワクチンは、「感染予防に有効なワクチン」には該当しません。また新型コロナにおいては、「感染による免疫」も時間経過により効果が減衰すると言われています。
以下では、議論を簡単にするため、こうした点を単純化して考えます。
すなわち「ワクチン接種などの方法で感染予防の免疫が得られる」「得られた免疫の効果は時間経過で減衰することはない」とします。

また以下では、主に「シンプルな SIR モデル https://sarkov28.hatenablog.com/entry/2021/01/04/113012」で考えます。
私は、まだ詳しくは書いていませんが、日本国民全体のような大規模集団を対象として、こうしたモデルで感染シミュレーションを計算することは机上の空論であり不適切だと考えています。このモデルで計算するのは、議論を簡単にするためです。机上の空論であることを承知の上でなら、ここでの計算からも得られるものはあると考えます。
(西浦氏が「42万死亡推計」で採用した「3世代型 SIR モデル https://sarkov28.hatenablog.com/entry/2021/01/25/170000」を使った計算も同様に机上の空論であり不適切です。このモデルを用いても、以下の議論は概ね、同様に成立します。ただし、モデルがやや複雑になる分だけ、議論がやや複雑になってしまいます。)

(2)記号の意味

以下で用いる記号の意味です。

  •  S : 感受性者数。時刻  t では  S(t)
  •  I : 感染者数。時刻  t では  I(t)
  •  R : 回復者数。時刻  t では  R(t)
  •  N : 全人口。( S + I + R = N です。)
  •  R_0 : 基本再生産数。
  •  Re(t) : 時刻  t における実効再生産数。

実効再生産数は、 R_t R(t) と書くこともありますが、本エントリでは  Re(t) と書きます。時刻  t における回復者数  R の表現  R(t) と区別するためです。

(3)基本再生産数が変化した場合の最終規模の理論値

本題に入ります。
基本再生産数が変化した場合の最終規模の理論値を検討します。

「免疫や感染症対策が、最終的な感染者数に与える影響」について検討する準備として、「シンプルな SIR モデル」で、「何もしなければ」の条件下で基本再生産数が変化した場合の最終規模を検討します。(感染症対策がなく、感染拡大開始時には免疫もない場合です。)
この場合の基本再生産数  R_0 と最終規模  p (全人口中の最終的な感染者数の割合)とは、最終規模方程式(final size equation)と呼ばれる式(1)
 1 - p = e^{- R_0 p} ...... (1)
を満たします。
この式から、 R_0 の値に対する最終規模  p の理論値を計算できます。
([稲葉 2008]。式(1)の導出も説明されています。)


適当な範囲の(小刻みな) R_0 と、その  R_0 から計算される最終規模  p とをプロットすると、以下のようなグラフになります。

fig.1-1 R0 を変化させた時の最終規模の変化(最終規模方程式から得た理論値)
fig.1-1  R_0 を変化させた時の最終規模の変化(最終規模方程式から得た理論値)

 p R_0 の増加につれて、単調に増加します。([稲葉 2009] には、fig.1-1 と同様のグラフがあります。)
幾つかの  R_0 に対する  p の値を示しておきます。

基本再生産数  R_0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5
最終規模  p 0.58 0.80 0.89 0.94 0.97

table.1 幾つかの  R_0 における最終規模の値(シンプルな SIR モデルの理論値)

「3世代型 SIR モデル」などの異質性を導入したモデルには、式(1) で示したような理論値は一般に存在しないと思います。

(4)基本再生産数が変化した場合の最終規模の計算値

基本再生産数が変化した場合の最終規模の計算値です。

前節と同じ条件における最終規模を、SIR 方程式をシミュレーションすることによって計算してみます。
具体的には、

  • ある範囲の(小刻みな) R_0 において、
  • 時刻 0 での初期値から、 S I R をそれぞれの時間 t に対して計算し、
  •  t が十分に経過した時点での  p = R / N(=(感染した人数)/(全人口))を計算して、
  •  R_0 p をプロットする、

ことになります。
fig.1-3 が得られます。(比較のため、再掲の fig.1-1 と共に示します。)

fig.1-1 R0 を変化させた時の最終規模の変化(最終規模方程式から得た理論値)と fig.1-3 R0 を変化させた時の最終規模の変化(SIR 方程式の計算結果)
fig.1-1  R_0 を変化させた時の最終規模の変化(最終規模方程式から得た理論値)と
fig.1-3  R_0 を変化させた時の最終規模の変化(SIR 方程式の計算結果)

(図の番号は連続していません。図の番号は、グラフを作成した google colab スクリプト [sarkov28 2023] における番号を示しているためです。)

fig.1-3 は、fig.1-1 と一致していて、視覚上の差異はありません。

こちらでも、幾つかの  R_0 に対する p の値を示しておきます。

基本再生産数  R_0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5
最終規模  p 0.58 0.80 0.89 0.94 0.97

table.2 幾つかの  R_0 における最終規模の値(シンプルな SIR モデルの計算値)

(計算方法が全く違うのに)前節 table.1 の値に一致しています。(もっと下の桁では不一致もありますが、計算上の誤差と考えます。)


実効再生産数  Re(t) は、流行開始時には  R_0 に一致していますが、感受性者が減少するにつれて低下していきます。

 Re(t) = (S(t) / N) \ R_0 ...... (2)

 Re(t) = 1 となる時がいわゆる集団免疫の状態であり、二次感染者数は増加しなくなります。

 Re(t) = (S(t) / N) \ R_0 = 1 なのですから、

 S(t) / N = 1 / R_0 ...... (3)

であり、感受性者の比率  S(t) / N 1 / R_0 になった時です。
集団免疫に関するよく見かける式は、感受性者の比率ではなく、(接触削減で達成される場合もある)感受性者の減少率で論じたものであり、1 から式(3)の両辺を引いて、

 (接触削減などによる感受性者の減少幅) = (N - S(t)) / N = 1 - 1 / R_0 ...... (4)

を集団免疫に必要な接触削減量として示したものです。
式(4) は、 R_0 = 2.5 であれば、 1 - 1 / 2.5 = 0.6 となります。

(5)感染症対策によって実効再生産数が低下した場合の、最終規模の計算値

感染症対策によって実効再生産数が低下した場合の、最終規模の計算値を検討します。

西浦氏らは「接触削減などの感染症対策は実効再生産数を低下させる」と想定しています。様々な異論があるところですが、ここではこの想定を受け入れて、検討を続けます。

「接触削減などにより、再生産数が相対的に  q 減少する」とした場合の実効再生産数  Re(t) の時刻  t = 0 での値、 Re(0) は、以下になります。

 Re(0) = (1 - q) \ R_0 ...... (5)

一般の時刻  t では、式(2) から

 Re(t) = (1 - q) \ (S(t) / N) \ R_0 ...... (6)

です。(流行期間中で  q が一定であるとの非現実的な想定をしています。)
この  Re(0) で感染拡大が開始した時の最終規模は、前節「基本再生産数が変化した場合の最終規模の計算値」と同じグラフ fig.1-3 になります。同じですのでグラフは略します。

(6)免疫によって実効再生産数が低下した場合の、最終規模の計算値

免疫によって実効再生産数が低下した場合の、最終規模の計算値を検討します。

感染拡大開始時点において、

  • 全人口が感受性者ならば実効再生産数は、基本再生産数になる( Re(0) = R_0)が、
  • 全人口の一部に免疫があり、その分、実効再生産数は低いところから開始する、

という状況を考えます。
(ここでの免疫というのは、「感染を予防する免疫」という意味です。)
(上の記述は、基本再生産数、実効再生産数という言葉の本来の定義からは外れていますが、検討の便宜上、このように書きます。)


前節で示したように、「接触削減などにより、再生産数が相対的に  q 減少する」とした場合の実効再生産数  Re(t) は、時刻  t = 0 と一般の時刻  t では、

 Re(0) = (1 - q) \ R_0 ...... 再掲(5)

 Re(t) = (1 - q) (S(t) / N) \ R_0 ...... 再掲(6)

となります。

ある割合が免疫を持っているために、時刻  t = 0 での感受性人口が  u \ N だとします( u t = 0 での感受性者比率であり、 0.0 \leq u \leq 1.0)。

この場合の実効再生産数  Re(t) は、時刻  t = 0 と一般の時刻  t で、

 Re(0) = (1 - q) \ u \ R_0 ...... (7)

 Re(t) = (1 - q) \ u \ (S(t) / N) \ R_0 ...... (8)

となります。

この  Re(0) での最終規模を、 u を変化させながら計算したのが以下のグラフです。
(「 t = 0 で(ワクチンなどにより)ある割合が免疫を持っている」としたのに、その後の免疫獲得は感染によるものだけを考える(=ワクチンによるものは考えない)という非現実的な想定をしています。)
fig.1-3 と比較したいので  R_0 は同じ値  R_0 = 2.5 としました。
接触削減などの対策の影響がない場合を見たいので  q = 0 としました。

fig.1-5 感受性者比率の初期値 u を変化させた時の最終規模の変化(SIR 方程式の計算結果)
fig.1-5 感受性者比率の初期値  u を変化させた時の最終規模の変化(SIR 方程式の計算結果)

幾つかの  u に対する p の値を示しておきます。

感受性者比率の初期値  u 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0
最終規模  p 0.35 0.50 0.64 0.77 0.89

table.3 幾つかの感受性者比率の初期値  u における最終規模の値

 u = 1.0 の時、 p = 0.89 です。
table.1、table.2 では、 R_0 = 2.5 の時、 p = 0.89 でした。
2つの  p の値が一致しているのは偶然ではありません。
table.1 の 0.89 は、「全人口が感受性者だった場合の  R_0 = 2.5 での最終規模」です。
table.3 の 0.89 は、「 R_0 = 2.5 で、全人口のうちの、 u = 1.0 が(=全部が)感受性者の時の最終規模」です。
この2つは同じですから、一致するのが当然です。

しかし気になることがあります。
この fig.1-5 を、上の fig.1-3(fig.1-1 は fig.1-3 と同じ)を比べると、曲がり方が違います。
次節では、この違いについて検討します。

(7)fig.1-3 と fig.1-5 の違いについて

fig.1-3 と fig.1-5 の違いについて検討します。

前節で述べたように、全人口の中のある割合が免疫を持っていて、感染拡大開始時点での感受性人口が  u \ N である場合、実効再生産数  Re(t) の時刻  t = 0 での値、 Re(0) は、以下になります。

 Re(0) = (1 - q) \ u \ R_0 ...... 再掲 (7)

接触削減などによる効果  q と感受性者比率の初期値  u が以下の(条件a)と(条件b)の場合、この  Re(0) は同じ値  0.6 \ R_0 になります。

 q  u  Re(0) = (1 - q) \ u \ R_0 最終規模
(table.2 での)条件a  0.4  1.0  0.6 × 1.0 × R_0 = 0.6 \ R_0 0.58
(table.3 での)条件b  0.0  0.6  1.0 × 0.6 × R_0 = 0.6 \ R_0 0.35

table.4 同じ  Re(0) になる  q u の値の例

前節(6)では、 R_0 = 2.5 で考えましたので、この値を使うと  Re(0) = 0.6 \ R_0 = 1.5 となります。
興味深いのは、(条件a)と(条件b)で最終規模が違うことです。感染拡大開始時の  Re(0) は同じなのに。
(条件a)では 0.58 であり、(条件b)では 0.35 です。この違いが、本節の検討対象である「fig.1-3 と fig.1-5 の違い」になっています。


(条件a) と (条件b) で SIR 方程式を数値計算し、この点を確認しました。

fig.2-1 感受性者比率の時間推移
fig.2-1 感受性者比率の時間推移

fig.2-2 感受性者比率の [tex: t = 0] からの増減の時間推移
fig.2-2 感受性者比率の  t = 0 からの増減の時間推移

fig.2-2 は、fig.2-1 の2つの曲線を下に平行移動したものです。
「fig.2-2 の右端(t = 250 付近)」と「table.4」とは、以下のように対応しています。

fig.2-2(t = 250 付近) table.4
赤曲線の右端、感受性者比率の減少が 0.58 条件a の最終規模が 0.58
青曲線の右端、感受性者比率の減少が 0.35 条件b の最終規模が 0.35

table.5 「fig.2-2(t = 250 付近)」と「table.4」との対応

fig.2-2 右端の(最終的な)感受性者比率の減少と、table.4 の最終規模(最終的な感染者数の比率)は予測されたことですが一致しています。

fig.2-1、fig.2-2 は (条件a) と (条件b) の比較でしたが、他のパラメータでも同様のことが起こります。
fig.1-3 と fig.1-5 の違いは、こうした違いのために発生しています。

この違いを言葉で書きますと、

(条件b) では、(条件a) に比べて、感染拡大開始時( t = 0)で既に感受性者比率が下がっている。このため、その後の感受性者比率の低下による集団免疫的効果が (条件a) よりも強く生じる。このため、最終規模(最終的な感染者数の比率)は小さくなる。

となります。(もっと明確に論証したかったのですが、とりあえずこれでご容赦ください。)
ここで「集団免疫的効果」というのは、いわゆる集団免疫の時点だけを指すのではなく、(それ以外の時点でも)感受性者数が少ないことにより実効再生産数が低下することを指しています。

(8)「3世代型 SIR モデル」における最終規模

「3世代型 SIR モデル」における最終規模について少し検討します。

これまでの検討は、全て「シンプルな SIR モデル」https://sarkov28.hatenablog.com/entry/2021/01/04/113012 によるものでした。
「3世代型 SIR モデル」というのは、西浦氏が「42万死亡推計」で用いたモデル https://sarkov28.hatenablog.com/entry/2021/01/25/170000 です。

「3世代型 SIR モデル」について、fig.1-3、fig.1-5 と同様のグラフを描画しました。
2つのモデルの最終規模のグラフは、table.6 のように対応しています。

グラフの内容\計算モデル シンプルな SIR モデル 3世代型 SIR モデル
最終規模の理論値 fig.1-1 fig.1-2
感染症対策で Rt が変化した時の最終規模 fig.1-3 fig.1-4
免疫で計算開始時の Rt が変化した時の最終規模 fig.1-5 fig.1-6

table.6 2種類の SIR モデルによるグラフの対応

fig.1-1~fig.1-6 計算モデルによる最終規模の違い
fig.1-1~fig.1-6 計算モデルによる最終規模の違い

「fig.1-3 と fig.1-4」「fig.1-5 と fig.1-6」のどちらにおいても、左「シンプルな」よりも右「3世代型」の方がグラフが低くなり、最終規模が小さくなり、つまり最終的な感染者数が少なくなっています。
これは「3世代型」が導入した異質性の効果です。

異質性を導入しないモデル(シンプルな SIR モデル)は、「全ての人々は均一に接触する」と仮定しています。 どんな年齢でも、どこに住んでいても、です。
「3世代型モデル」は、異質性を部分的に導入しています。世代毎の接触の違いです。
(世代数が3つでいいのか、この3つの世代でいいとしても西浦氏が導入した感受性の異質性だけでいいのか、世代以外の異質性は考慮しなくていいのか、などの論点は残っています。西浦氏もこのモデルへの異質性の導入が不十分であることを認めています [西浦 2020]。)

異質性を導入すると、感染者と感受性者の接触に偏りが生じます。すると、偏りがない場合(=均一に接触する場合)と比べて、感染者と感受性者の接触は(ある程度)生じにくくなります。
その結果、感染拡大が(ある程度)抑制されるのです。

table.2 では、「シンプルな SIR モデル」における最終規模の数値計算の値を示しましたが、これと比較して「3世代型 SIR モデル」の値を書いておきます。

使用モデルやグラフ\基本再生産数  R_0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5
シンプルな SIR モデル fig.1-3 0.58 0.80 0.89 0.94 0.97
3世代型 SIR モデル fig.1-4 0.52 0.71 0.80 0.85 0.87

table.7 幾つかの  R_0 における最終規模の値
シンプルな SIR モデルでの値と、3世代型 SIR モデルでの値を比較

「3世代型モデル」への異質性の導入については、こちら https://sarkov28.hatenablog.com/entry/2021/01/25/170000 や、西浦氏による 2020-06 の Newsweek の記事 [西浦 2020] に少し説明があります。
私はこの Newsweek 記事の西浦氏の記述の中には、自身の「42万死亡推計」計算を正当化するためと思われる不適切な記述があると考えていますが、この論点については長くなるので、別の機会にします。おそらく twitter( https://twitter.com/sarkov28 )に書きます。

また、この付近には、ここまでの議論をひっくり返すような重要な論点があるのですが、この論点についても長くなるので、別の機会にします。
おそらく twitter( https://twitter.com/sarkov28 )に書きますが、ブログの別エントリにまとめる予定です。

(9)基本再生産数が変化した場合の集団免疫閾値

基本再生産数が変化した場合の集団免疫閾値を計算します。

「シンプルな SIR モデル」と「3世代型 SIR モデル」で計算し、比較します。

これまで検討してきた最終規模(最終的な感染者数(の比率))と深い関係にあるのが、集団免疫閾値です。
この両者は、どちらも集団免疫の効果によるからです。

fig.3-1~fig.3-4 R0 を変化させた時の集団免疫閾値の変化

fig.3-1  R_0 を変化させた時の集団免疫閾値の変化(シンプルな SIR モデル)
fig.3-2  R_0 を変化させた時の集団免疫閾値の変化(3世代型 SIR モデル)
fig.3-3 fig.3-1 の横軸を拡大したもの
fig.3-4 fig.3-2 の横軸を拡大したもの

fig.3-1 と fig.3-2 は、これまで検討してきた最終規模のグラフ、例えば fig.1-1 と横軸範囲を合わせてあります。
少しこれだと横軸範囲が狭いと思ったので、拡大したのが fig.3-3 と fig.3-4 です。

fig.3-3 より fig.3-4 の方が少しグラフが低くなっています。
幾つかの  R_0 での集団免疫閾値を比較してみましょう。

使用モデルやグラフ\基本再生産数  R_0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5
シンプルな SIR モデル(理論値) 0.33 0.50 0.60 0.67 0.71
シンプルな SIR モデル(計算値)fig.3-3 0.33 0.50 0.60 0.67 0.71
3世代型 SIR モデル(計算値)fig.3-4 0.30 0.45 0.53 0.59 0.64

table.8 幾つかの  R_0 における集団免疫閾値の理論値と計算値

「シンプルな SIR モデル(理論値)」というのは、集団免疫閾値の理論値としてよく見るこの式

 \displaystyle (集団免疫閾値) = 1 - \frac{1}{R_0} ...... (9)

の右辺の  R_0 に、表に示した値を代入して得た数値です。
table.8 の「シンプルな SIR モデル(理論値)」でのこの値は、「シンプルな SIR モデル(計算値)」に全て一致しています。

「3世代型 SIR モデル」などの異質性を導入したモデルには、式(9) で示したような理論値は一般に存在しないと思います。

table.8 で、「シンプルな SIR モデル(計算値)」と「3世代型 SIR モデル(計算値)」を比較すると、「シンプルな SIR モデル(計算値)」の方が全てで少しずつ大きな値になっています。

例えば  R_0=2.5 の時、「シンプルな SIR モデル」で考えると、集団免疫に到達するには、0.60 つまり60%の人が感染(して免疫を獲得)する必要があります。
しかしこれを「3世代型 SIR モデル」で考えると、0.53 つまり 53%の人が感染すれば済むことになります。

この付近には、ここまでの議論をひっくり返すような重要な論点があるのですが、この論点については長くなるので、別の機会にします。
おそらく twitter( https://twitter.com/sarkov28 )に書きますが、ブログの別エントリにまとめる予定です。

(10)参考文献

参考文献です。

(11)修正履歴

修正履歴です。大きく修正した場合には、ここに書きます。

  • 2023-04-11
    公開。
  • 2023-04-12
    あちこちに加筆しました。
  • 2023-05-15
    「(9)基本再生産数が変化した場合の集団免疫閾値」を追加しました。
    「(8)「3世代型 SIR モデル」における最終規模」の最後の「また、この付近には」以後を加筆しました。