いろいろなことを考察する

SIR 系モデルの説明 その1 「SIR」(「シンプル SIR」)

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SIR 系モデルの簡潔な説明をします。
その1 の今回は「シンプル SIR」モデルを扱います。
その2 はこちら
微分方程式を知らない人にも雰囲気を掴んで頂きたいと考え、(2)「式の意味を言葉で書いてみる」を書いてみました。

(本エントリの内容は、以前のエントリ と内容が重複しますが、本エントリの方が詳しいです。)

(1)SIR モデル(シンプル SIR モデル)

最もシンプルな SIR モデルは、次のような式になります。

 \displaystyle \frac{dS}{dt} = - \beta \ S \ I …… (1)

 \displaystyle \frac{dI}{dt} = \beta \ S \ I - \gamma \ I …… (2)

 \displaystyle \frac{dR}{dt} = \gamma \ I …… (3)

 S は感受性者数、 I は感染者数、 R は回復者数です。
感受性者というのは「感染していなくて、免疫も持っていない者」という意味です。
感染が始まる前は、「全人口=感受性者数」となります。

(2)式の意味を言葉で書いてみる

(この項目は「数式で書いてある方がわかりやすい」という方に向けたものではありません。逆に「数式さえないのなら、少々長い説明でもいい」とお考えの方に、少しでも雰囲気を掴んで頂ければと考えて書いたものです。この数式は、ある意味では当たり前の関係を表現しているだけであることを示せたと思います。SIR の方程式の考え方は、難しいもの、特別なものではありません。)

(2-1)「感受性者数」「感染者数」「回復者数」

式(1)(2)(3) が意味するところは、以下の (a)~(e) のように、おおまかに言葉で書くことができます。

  • (a) 「感受性者数」は、「新しく感染した人数」だけ減る。
  • (b) 「感染者数」は、「新しく感染した人数」だけ増え、「新しく治った人数」だけ減る。
  • (c) 「回復者数」は、「新しく治った人数」だけ増える。

(a)(b)(c) は、全く当たり前のことが書いてあるだけですが、これがそれぞれ式(1)(2)(3) に対応しています。(後でもう少し説明します。)

(2-2)「新しく感染した人数」と「新しく治った人数」

  • (d) 「新しく感染した人数」は、「感受性者数」×「感染者数」に比例する。
    比例定数は  \beta
  • (e) 「新しく治った人数」は、「感染者数」に比例する。比例定数は  \gamma

 \beta はベータ、 \gamma はガンマと読みます。ガンマはrと字の形が似ていて紛らわしいですが、この文字がよく使われるので踏襲します。

(d)(e) は、式(1)(2)(3) の「=」の右側の項目を記述しています。(これも後で説明します。)

(a)(b)(c) に (d) と (e) を加えれば、式(1)(2)(3) の内容はすべて書いたことになります。


これらを個別に見ていきましょう。

(2-3)式(1)(2)(3) の左側の説明

まず式(1)(2)(3) の「=」の左側から見ていきます。

式(1)(2)(3) の中で一番簡単なのは式(3) なのでこれに目を付けます。
式(3) の「=」の左側の
 \displaystyle \frac{dR}{dt}
というのは、「 R の増加量」を数式で書いたものです。(「ディー アール ディー ティー」と読みます。)

 R は回復者数でしたから、
 \displaystyle \frac{dR}{dt} = R の増加量 = (回復者数の増加量)
ということになります。

つまり、式(3) の左側は、(c) のことを書いていることが分かります。

式(1)(2) の左側も、同様に (a)(b) のことを書いています。
 S が感受性者数、 I が感染者数であることを思い出しながら、式(1)(2) の左側と (a)(b) を見てください。

ここまで、式(1)(2)(3) の「=」の左側の意味をご説明しました。

(2-4)式(1)(2)(3) の右側の説明、その1

次に、式(1)(2)(3) の「=」の右側と、それを記述している (d)(e) を見ていきます。

ややこしく見える 式(1)(2)(3) の「=」の右側の項目は、よく見ると、2種の要素の組み合わせに過ぎません。
 \beta \ S \ I」と「 \gamma \ I」、この2つを足したり引いたりしているだけです。
ということは、この2つが分かれば、右側は分かることになります。
この2つを記述しているのが (d)(e) です。

(e) の表現は、実際の病気の治り方と違うんじゃないかと思うところもあります。やや違和感はあるかも知れませんが、「シンプル SIR」においては、このような考え方をするとご了解ください。

(e) の表現を数式にすると、「 \gamma \ I」となります。
つまり、「 \gamma \ I」というのは、「新しく治った人数」です。

(2-5)式(1)(2)(3) の右側の説明、その2

次に (d) は、「どういう場合に感染するのか」を以下のように考えています。

  • (d1) 「感受性者」と「感染者」が、ランダムに移動するような社会を考える。
  • (d2) 現実社会とは異なり、「感染者」も隔離されたりせずに移動しているとする。
  • (d3) こうした状況では、「感受性者」と「感染者」が接触する数は、「感受性者数」に比例し、「感染者数」にも比例する。
  • (d4) したがって、接触数は「感受性者数」×「感染者数」に比例する
  • (d5) 「感受性者」と「感染者」が接触すると、ある一定の確率で感染すると考える。
  • (d6) すると、「新しく感染した人数」は、「感受性者数」×「感染者数」x  \beta となる。 \beta は、(d3) における比例定数と、(d5) における「一定の確率」の積です。

この (d6) を数式で表現すると、「 \beta \ S \ I」となります。
つまり、「 \beta \ S \ I」というのは、「新しく感染した人数」です。

(2-6)式(1)(2)(3) を全て読めるようになった

これで式(1)(2)(3) の全ての項目を読めるようになりました。

本エントリの目的はある程度達成したと思うので、ひとまずここまでとします。

上記のうち、(d3) の説明は、twitter菊池誠 @kikumaco さんの こちらの tweet で紹介されている、ご本人作成の youtube 動画 の説明を参考にして修正しました。



  1. 修正履歴 2021-01-19: (2)の (d3) 付近の説明の変更、関連する語句の修正。
  2. 修正履歴 2021-01-25: (2)に、(2-1)~(2-5) を設け、関係する表現を修正しました。
  3. 修正履歴 2021-07-11: 文中の「未感染者」の表記を「感受性者」に改めた他、全体を加筆・修正しました。
  4. 修正履歴 2023-04-11: 「西浦氏が「接触8割減」の説明をした際に使用したグラフは、最もシンプルな SIR モデルを使用して描いたと思われます。最もシンプルな SIR モデルは、次のような式になります。」との記述を、「最もシンプルな SIR モデルは、次のような式になります。」に変更しました。「接触8割減」の説明をした際に使用したグラフに使用したのは、「42万死亡推計」で用いた「3世代型 SIR」であろうと考えを変えたからです。